THE21 » キャリア » 最新AIにも隙はある? 非科学的な迷信がAIに勝利したワケ

最新AIにも隙はある? 非科学的な迷信がAIに勝利したワケ

堀場英雄(子供向け多読英語塾 BOOK i LAND 創業者・学長)

最新AIにも隙はある? 非科学的な迷信がAIに勝利したワケ

AI時代だからこそ求められる、「データの質」を見極める視点を解説してもらった。

※本稿は、堀場英雄 著『一流の頭脳だけが解ける33問 コンサル思考1分間トレーニング』(Gakken)の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

Q.AIが「100年の迷信」に負けたのはなぜ?

ある林業の現場での出来事。最新のAIに、「過去10年分の気象データや土壌データ」を読み込ませ、最も効率的な、木の伐採スケジュールを作りました。

しかし、ベテランの木こりはAIの指示を無視し、「木は『冬の新月』の時期に切る。それ以外の時期に切った木は腐る」という、非科学的な迷信にこだわりました。

数年後、AIの指示で切った木は虫が湧いて腐り、木こりが「新月」に切った木だけが、最高級の木材として生き残りました。

気象条件などを完璧に計算したはずのAIは、なぜ「非科学的な迷信」に惨敗したのでしょうか?

 

A.迷信の正体は、「究極のビッグデータ」だったから。

この問いは、「AIの死角」を扱うように見えて、もっと根の深い問いを投げかけています。私たちが「非科学的だ」と一言で切り捨てているものの中に、実は、何百年もかけて練り上げられた本物の知恵が潜んでいる──そのことに気づかないまま走ると、最先端の道具を持っているのに、あっさりと足をすくわれることもあるのです。

AIが学習しているデータの正体を、一度立ち止まって、眺めてみましょう。

「過去10年分の気象データ」「過去10年分の土壌データ」。これは一見すると、膨大な情報量に見えます。しかし、これは人類が生きてきた時間軸で見れば、ほんの薄皮一枚です。

林業という現場で問われるのは、樹木が数十年・数百年かけて育つ、生態のリズムです。一方、AIに与えられているのは、人間が「最近デジタル化することができた」記録だけ。気象データのデジタル化が本格的に始まったのは、せいぜい半世紀前。樹液の動きを月齢と紐づけて記録した長期データは、そもそも公的に存在しません。

つまりAIは、見えていない領域がたっぷりあるまま、見えている範囲だけで、「最適解」を出してきます。

データの「内容」を疑う前に、まず「取得方法」を疑う。誰が、いつから、どんな目的で集めたデータか──これが出どころの質(source quality)の目です。

短期間にデジタル化された情報は、それ自体は精緻でも、扱える時間スケールが限定されている。この前提を読まないまま「データに基づいて」と言い切るのは、サンプル設計を飛ばして結論を出すのと同じです。

最先端のAIは、とても賢い。けれど、賢いからこそ、手元のデータが世界のすべてだと錯覚した瞬間に、脆くなるリスクを持っています。木こりがAIの指示を無視できたのは、彼が、「お前の見ている10年は、俺たちの100年に届かない」と、感覚で知っていたからでした。

 

迷信の正体は、「100年スパンの自然実験」

「冬の新月に切れ」と言われても、素人が聞けば、言い伝えられているだけで根拠がないように見えます。しかし、この経験則については2003年、世界トップクラスの工学系大学であるETHチューリッヒ(チューリッヒ工科大学)のエルンスト・ツルヒャー教授チームによって、科学的検証が行われたのです。

実証された事実は、2つ。ひとつは、新月伐採材(ムーンウッド)は、通常材より耐久性も耐候性も明確に高い。もうひとつは、オーストリアのトウヒ林で観察された結果として、キクイムシは、満月伐採の木を新月伐採の木より、はっきりと好んで食害する。

メカニズムの完全解明はまだ途上ですが、「月の引力によって樹木の水分と樹液成分が周期的に変動し、新月期に水分・デンプン量が低下することで、虫害と腐敗のリスクが下がる」という仮説が有力です。

ここで起きていたことを、いったん言い直してみます。文字を持たなかった時代から、何百年・何十世代にもわたって、木こりたちが「いつ切った木が生き残るか」を試し続け、結果だけを口承で残してきた。これは、現代科学の言葉で言うところの、「100年スパンで回された自然実験」にほかなりません。先人が「迷信」というラベルで遺してくれたのは、本質的には、究極のビッグデータだったのです。

「雷と豊作」の関係も、同じ構造を持っています。「雷が落ちると豊作になる」と、昔の人は経験から知っていました。なぜかはわからないけれど、雷を稲の伴侶(夫=つま)と考え、「稲妻(いなずま)」と呼んでいた。

ところが20世紀になって、雷の高エネルギーによって空気中の窒素分子が酸素と結合して窒素酸化物になり、雨に溶けて硝酸塩として土壌に届く──つまり、雷は「天然の肥料散布装置」である、と判明しました。経験則は、メカニズムが解明される何千年も前から、結果を正しく拾っていたのです。

ただし、ここで早合点してはいけません。「迷信は実は本物だ」と全肯定するのも、また罠です。世の中には、結果を出していない、メカニズムも説明できない、ただラベルだけが「伝統」「直感」「最新科学」を名乗っているものが、ごまんとあります。

そこで持ち出すのが、ラベルではなく「中身」で判定するための、3点セットです。

メカニズム──「なぜ効くのか」の説明が、筋道立てて存在するか
実証の厚み──結果は、繰り返し・独立に確認されているか
反証の扱い──都合の悪いデータに、向き合っているか

正直、エセ科学を見抜くのは、簡単なようでとても難しいのですが、この3軸で見れば、ただの「迷信」か、「本物の知恵」かを判断する糸口にはなります。

 

境界線は、時代でひっくり返ることもある

たとえば、擦り傷の治療法。私が子どもの頃の常識は、「消毒して乾燥させる」でした。赤チンを塗り、ガーゼを当て、かさぶたができるのを待つ。最近では見かけなくなりましたよね?

今は、「消毒はせず、湿潤環境を保つ」モイストヒーリングが、家庭でも常識になりつつあります。180度の反転です。

そしてその反転は、「最新の科学」が新たに発見したから起きたわけではありません。科学的な反証データは、実は1962年に、すでに存在していました。このすぐ下のコラムで触れますが、半世紀近く眠っていた答えが、ようやく市井に届いたのです。正しい答えが見つかっても、業界の慣性などで、半世紀遅れることもある。これは医療業界の特殊事情ではなく、あらゆる業界で起こり得ます。

 

AIの「正解」を疑え

「疑え」とは、「使うな」ということではありません。AIは、強力な道具です。

迷信だからバカにする、最新だから信じる、伝統だから尊ぶ、AIだから疑わない──どれも「妄信」です。メカニズムと、実証の厚み、そして反証の扱い。

この3軸で、自分の頭でふるいにかけて、初めて「科学のフリ」と「本物」の境界線を引く目が育ちます(エセ科学耐性(pseudoscience))。

これは、骨が折れます。簡単ではありません。けれど、簡単ではないからこそ、鍛える価値があります。定説のある科学の「なぜ」については、AIがとてもわかりやすく教えてくれます。まずはそこから始めて、「なぜ?」と考えるクセをつけていくのも、よいかもしれません。

プロフィール

堀場英雄(ほりば・ひでお)

子供向け多読英語塾 BOOK i LAND 創業者・学長

名古屋大学工学部卒業後、ノースカロライナ州立大学(NCSU)大学院にて原子核工学修士号を取得。
新卒でGE(ゼネラル・エレクトリック)に入社し、財務経理部門のリーダシッププログラムFMPを修了。その後、BCG(ボストン コンサルティング グループ)へ転身し、戦略コンサルタントとして従事。その後、大手日系メーカーに勤務。
その傍ら、自身の「英語力×戦略x学び方」をかけ合わせたオンライン英会話スクールを「複業」として創業。月間受講者数700名を超える規模へと成長させる。40代で、「わが子に受けさせたい教育」を模索し、世界最難関のミネルバ大学大学院へ進学、日本人2人目の修了生となる。
著書に『一生食える「強み」のつくり方』(日本実業出版社)がある。学校・企業向けの「世界最先端の学び方」や「コンサル思考」をテーマとした講演・研修は好評。
著者URL https://hideohoriba.com/

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

世界に通用する「論理力」を手に入れる

戸塚隆将(ベリタス代表取締役)

原因分析の基本 「なぜなぜ分析」で因果関係を明らかにする方法

高松康平(株式会社スキルベース代表取締役)

STP分析を正しく説明できるか? 今さら聞けない「マーケティングの原則」

庭山一郎(シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役)

誰でも言葉巧みに思いのまま!? 駆け引きのテクニック3選

齊藤勇(心理学者)

AIに負けない思考力を鍛えるには? 理想の未来を実現する「SFプロトタイピング」

樋口恭介(SF作家/ITコンサルタント)